【ネタバレ注意】『チ。-地球の運動について-』第1集初読感想

ビッグコミックスピリッツで連載中の魚豊先生の『チ。-地球の運動について-』第1巻感想です。

一言で言うとめちゃくちゃ面白かったです。

第1話

まず1ページ目
「硬貨を捧げれば、パンを得られる。
税を捧げれば、権利を得られる。
労働を捧げれば、報酬を得られる。
なら一体何を捧げれば、この世の全てを知れる?」

いきなりこの文から始まりなんか壮大な話だなあと思いました。

まあ、元々「地動説」がテーマの話というのは知っていたのですが…

舞台は15世紀前期のP王国という架空の国です。

最初の拷問で爪を剥ぐシーンはリアルに顔が「うわぁ」って顔になりました笑

爪が剥がれるってリアルにありえるシチュエーションだと思うんでこういうのは本当に苦手です。
東京喰種でもうわぁってなったのを思い出しました。

そして拷問に耐えて拷問官に「お前ら如きに真理は支配できないッ!」って言ってああ…終わった…と思ったら大量の爪を机に置くシーンでまたもや「うわぁ」ってなりました。
爪系のグロ描写は本当にNGです。

学校で宇宙の中心には何があるかとの問いに表紙にもなっている主人公のラファウが地球だと答えます。

これが天動説ですね。
Wikipediaより引用した文

天動説は単なる天文学上の計算方法ではない。それには当時の哲学や思想が盛り込まれている。神が地球を宇宙の中心に据えたのは、それが人間の住む特別の天体だからである。地球は宇宙の中心であると共に、全ての天体の主人でもある。全ての天体は地球のしもべであり、主人に従う形で運動する。中世ヨーロッパにおいては、当時アリストテレス哲学をその体系の枠組みとして受け入れていた中世キリスト教神学に合致するものとして、天動説が公式な宇宙観と見なされていた。

これが天動説です。
ラファウは12歳で大学に合格した神童です。
それに対して学校の先生兼義父が

「12歳で合格とはもうなんかヤバいので祝福しよう。」

おおう…なるほど…そういう感じか…

勢いでゴリ押す系か…

でもなんかスゴイのは伝わってきました。

ラファウは大学で神学を専攻するという。

ラファウが神学を専攻する理由を述べ、作中世界の宗教の影響力というのがわかります。

日本人は無宗教に近い人種なので宗教を盲信する事についての共感がわかりにくいから宗教を盲信するキャラが出てくるとなんかヤバそうな雰囲気だなと思う人が多いと思います。自分もそうです。

ラファウも言い方は悪いですが洗脳されてる風に見えます。
ですが!!

世界チョレ〜

この台詞でラファウって信仰心があまりないんだなあと思いましたね。

あの一連の件でラファウがとても自信家だとわかりました。

そして
「僕の信条は”合理的に生きる”だ。」

「合理的な選択をすればこの世は快適に過ごせる。」

合理的なものは、常に美しいのだ。

これがラファウの行動の全ての動機になっていてキャラがブレないのが凄いしっかりしてるいなと思いました。

最初のページで宗教観を描写しまくってますね。

ラファウが夜空を見上げて天文に想いを馳せるシーン。
「天文を続けるのは合理的じゃない。」と言っているけれど諦めきれてないシーンは人間味が溢れていてラファウがちょっと身近な存在に感じました。

磔にされて生きたまま焼かれるシーン…
ヤベエ!!
作中世界で絶対的な影響力を持っているC教と相反する思想を持った人間・異端の処刑だそうでここぞとばかりにC教のヤバさを描いています。

そしてそれをちょっと批判的な目線で見ているラファウにまたもや共感できます。

そして運命のキーパーソン!フベルトの登場!!

初っ端「私は君に利益を与えない。好かれようと作り笑顔なんてしなくていいぞ」と言います。

ラファウの事を一瞬で見透かしていてなんか凄そう…

口に火傷の痕もあります。

フベルトはラファウが持っていた天体観測器具を見抜いていて何となくこの人、天文学者なんだなあとわかりますね。

そしてラファウはかなり良い腕の天体観測者だったと。

フベルトは研究の為に異端思想から改心したと嘘をついてムショから出てきたという。
そして研究の為にラファウを脅迫します。
異端者は二度捕まったら即死刑らしくフベルトはリーチが掛かっています。
拒否したら殺す。

フベルトにとっては天文学の研究はそれほど重要らしいんですね…

ラファウもフベルトの研究に興味を持ってしまいます。
いい観測場所があると言われ絶対行くもんか!と言っていたのに次のページにめくった瞬間、「す、凄い!来てよかった!!」
は笑いました。

たまにシュール系ギャグを入れてくる漫画だと完全に理解しました。

フベルトが宇宙はどういう形をしてるか知っているかと問います。

ラファウは天動説に基づいて図を書きます。

それに対しフベルトは
“この真理は美しいか?”
“この宇宙は美しいか?”
“君は美しいと思ったか?”
と問いかけます。

ラファウの答えは共通の秩序を持たないからあまり美しくない。
そもそも宇宙全体を表せる一つの秩序なんてある訳ない。
だからそんなこと問題にしてもしょうがない。

フベルトはそれは大問題だと言う。
私は美しくない宇宙に生きたくない。

太陽も星も動いていない。宇宙を動いているのは地球だと言う。

ラファウの驚きの表情。想定外の答えに戸惑うも少し理屈を理解し始めているような表情にも見えます。

フベルトの考える宇宙では自転と公転の2種類の運動をしている。

これ今では当たり前の考えですがよくよく考えたら地球ってヤバいなと。普通そんなこと考えないでしょ。

「そこでは、太陽は静止し、バラバラだった惑星は連鎖して動き、宇宙は一つの秩序に統合され、常識は覆り、C教は激昂し」

“美しさ”と”理屈”が落ち合う。

「これが私の研究だ。そうだなそれを、」

地動説とでも呼ぼうか。」

美しさと理屈が落ち合う!!
ラファウの信条は”合理的に生きる”

“合理的”なものは”美しい”

このラファウの信条にピッタリ当てはまる地動説。
ラファウが地動説に惹かれるのも当然だなと思いました。

第2話

冒頭、いきなりラファウは地動説を否定します。

地動説が間違っていると思う3つの理由

矛盾が多い。地球が動いているなら何故ジャンプしても同じ位置に着地するのか。

合ってたとして誰が支持する?

そんな直感に命を預けるのは愚かだ

一つ目の理由は慣性の法則でしたっけ?全然覚えてないです。
二つ目と三つ目の理由はC教が絶大的な権力を持つ世の中で合理的に生きる為ですね。

これに対してフベルトも正論だと言うが三つ目には反対だと言う。

「私は命を張る場面でこそ直感を信じる」

「信じて間違ったらどうするんですか?」

「構わない。不正解は無意味を意味しない」

不正解は無意味を意味しないって無駄な努力はない的な意味合いですね。

この台詞からスポーツ漫画みたいなエネルギーを感じました。
スポーツ漫画でも大会で負けて終わるチームが出てきますがじゃあ、それでスポーツ人生は終わりなのかっていうと多分違います。

『ハイキュー‼︎』なんかは部活のその後を描いていてまさに、不正解は無意味意味しないをやっていたなあと思い出しました。
(ここでいう不正解は優勝出来なかったこと)

ラファウが帰り道滑って転んでもしかしたら地球が自転しているかもと思い始めます。

日常の出来事から新たな気づきをして地動説を自分なりに検証していきます。

“神が作ったこの世界は、きっと何より美しい。”

“それを知るのに盲信も金銭も地位もいらない。”

“知性だけ携えて、小さな頭蓋の中で神の偉業を理解してみせる。”

盲信も金銭も地位もいらないってとこ、THE・研究者って感じがします。

そしてラファウは自ら検証した地動説のメモをC教に見つかってしまいますがフベルトが自分のだと言ってラファウを庇い焼かれて死にます。

ラファウはフベルトから受け取ったペンダントから地動説の研究資料の隠し場所に辿り着きフベルトの遺言通りに資料を燃やします。

遺言にあった「貴方の”理屈”は、私の”直感”よりずっと強い。」

研究資料が見つかったら異端思想として捉えられてしまう。しかし、命を張る場面でこそ直感を信じる。

ラファウが一度点けた炎をかき消すシーンは痺れました。

理屈ではなく心で訴えかけてくる感情描写がめちゃくちゃ上手いなと思いました。

いや、もちろん前フリがたくさん合ったんですけどラファウは現代の日本人に近い人物像になっていると思うので読者とラファウの想いがリンクして心に、感情に訴えかけてくるんだと思います。

そしてラファウは学校で天文学を専攻する事を宣言します。

『申し訳ないが、この世はバカばっかりだ。
でも気付いたらその先頭に、僕が立ってた。

本当の僕は、”清廉”でも”聡明”でも”謙虚”でも”有力”でもなく、

“横柄”で”傲慢”で、”軽率”で”無力”で

そして今から地球を動かす。』

世界を合理的で美しいと証明する為に非合理的な生き方を選択したラファウがカッコ良過ぎます。

第一話、第二話の試し読みはこちらから

第3話

C教の拷問官の名前がノヴァクと判明。
冒頭で木に引っかかったボールを取って子供に渡します。

厳しいのは異端思想に対してだけなんですね。
そして娘もいる模様。

異端者宅で拷問したら先ほど助けた子供が帰ってきます。

子供の心情を考えると辛い…

ノヴァクは元傭兵で出家していないという特殊な立ち位置です。
こいつが敵キャラですね。

ラファウは義父に天文学を専攻する事を撤回しろと迫られ普通に嘘をつき天文を二度としないと宣言します。

ラファウは神学から天文に途中で編入して地道に研究と自身の地位向上、対立派閥の排除をして3、40年がかりで地動説を証明するつもりだそう。

人生を懸けてまでしたい事が12歳で見つかるのは少し羨ましいです。

ノヴァクがラファウの異端思想に勘づき始めます。

ラファウの義父は昔、地動説を研究していたそうで前科もあるという。
だからフベルトを引き取ったりしたんですね。

異端者がなぜ、火で焼かれて死刑になるのか。

火で焼き肉体が灰になると最後の審判で復活する身体がなくなるから。

個人的には人は死んだら死亡理由に関係なく無になると思いますが作中の彼らは復活できると信じています。
さらには死後の世界も信じています。
大体の宗教って死んだ後も何かしらの世界があるみたいな考えですよね。

C教には全く共感できないので敵対キャラとしてはピッタリです。

義父はラファウに地動説は証明できるか聞くとラファウは沈黙の後、「はい」と答えました。

これが本当に思って言っているのか、いつもみたいに嘘を付いたのか…義父がどう読み取ったかは分かりませんが私はラファウの真剣な表情から本気で証明できると信じたのと同時にC教に密告されるのではとの諦めもあるのかなと思いました。

そして翌朝、ラファウの寝室にはノヴァクとその取り巻きがいました。
義父は異端の罪を軽くするため密告しました。

それに対しラファウは「あ、あー…」とついに来たか…みたいな言葉を出します。

前日の夜にベッドの下から何かを取り出していたので予期して何か策を打っていると思います。

第4話

牢屋にてノヴァクから拷問の説明を受けます。
明日の裁判で改心を宣言して天文に二度とかかわないようにして今すぐ資料の在処を吐き出して自らの手で燃やせば人生をやり直せると説明されます。

流石のノヴァクさんも子供を虐待する趣味はないようで良心的だなと思いました。
子供には甘めの判定をするのは他の拷問官もそうなんですかね?

そしてラファウは牢屋で今までのことを後悔します。

しかし、小さな窓から見た空を見ると昔よりも宇宙がよく見えるようになりました。

「こんなに、美しかったのか……」

不正解な選択をしても無意味じゃないということですね。
フベルトの言葉がとても刺さります。

そして裁判で地動説を信じていることを宣言します。

資料を焼かない方が地動説の為になると思ったという。

C教の敵はラファウではない。知性だと言う。
拷問前日に飲めるワインの中に毒を仕込み自殺します。

流石のノヴァクさんも最大の焦りを見せます。冷や汗もハンパない。

フベルトから貰った感動を生き残らす。

「訳のわからん物に熱中して命すら投げる。
そんな状態を”狂気”と言うとは思わないのか?」

「でもそんなのを、”愛”とも言えそうです

愛と狂気は紙一重。そしてラファウは笑って死にます。
遺体は火で焼かれて灰になりました。

正直こんな展開になるとは思ってもいませんでした。
主人公が死ぬなんて…単行本の表紙もそういう意味だったんですね…

にしてもラファウは12歳なのに覚悟が決まりすぎですよね。恐ろしい。

時は過ぎ10年後フベルトのペンダントを持った人物が剣を持った男に脅されて地動説の資料の在処まで辿り着きます。

そこにはラファウが書き残した手紙が。

手紙には”地”を意味する『ziemia』の文字が。

ziemiaはポーランド語で大地を意味します。

ああ、この物語の主人公はラファウではなく地動説そのものだったんだなと思いました。

受け継がれる人々の意思が地動説の存在を証明していく物語。

ジョジョに近いものを感じます。ジョジョも黄金の精神を受け継いだ人々の物語ですからね。

最後の地はタイトルのチ。にもかかっています。

タイトルの『チ。地球の運動について』のチ。は地球のチ、そしてフベルトやラファウが残した知識のチでもあるなと思いました。

地動説がテーマって内容が難しそうだなと思っていたんですけど理屈を説明する教科書的な内容ではなくて人々の情熱を描いた凄みのある漫画でした。

そして主人公のラファウが死んで次巻というなんとも続きが気になる終わり方…久々に予想外の展開で度肝を抜かれました。

そう言えばヒロインが出てこな…いや、男しか出てこねえなこの漫画。

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